「あの……。なんですか? なにか……」
「来ないの?」
「え?」
「来ないの? 美術室」

抑揚のない声は、ほんの少し威圧的にも感じられる。

私は、なんとなく呼吸しづらかった。心臓を打つリズムが速まっていくような気がして、それを抑えようとすればするほど、目の前の1ヶ月近くぶりの人を意識してしまう。

「えー……と、……はい。いろいろあって、仮入部終了しようかな、なんて」
「いろいろって? 母親? 塾のこと?」

すかさず言われたふたつのワードに、私は頭をかいていた手を止める。半分はまさしくその理由だったから。もう半分の理由は、他ならぬ目の前の人なんだけど、先輩は私が告白したことを、もう忘れてしまったのだろうか。

私は肩がずんと重くなった気がして、
「……そうです」
と、小声で答えた。

「ふーん……」

なにこの無表情。なにこの沈黙。なにこの空気。“親のいいなり人間”突き進むんだ、と言っているような目。
それに、そんなことを聞くためだけに1年のところにまで来たのだろうか。

「じゃあ……」

自分で勝手に、この沈黙をいろんな意味に解釈してしまいそうでたえきれなくなった私は、まだ隣に諏訪くんがいるにもかかわらず、帰ろうとする。