「水島は、小テストの結果とか見てても安定しないな」
「はい……すみません」
「すみません、て。先生のために頑張ってるわけじゃないだろ? 自分のためだろ?」
「……はい」
「やる気はあるの?」
「……はい」
「今週末は2回目の模試だから、気を抜くなよ」
「……はい」
塾での個人面談を終えた私は、重い足取りで自習室に戻る。
授業が1コマ削られて面談時間にあてられたから、チャイムがなるまで塾の課題をすることにした。
雨が激しくて中にまでその音が聞こえてくるのに、私が椅子に座る音が室内に静かに響く。面談以外の生徒は、みんな黙々と勉強しているからだ。
宿題の途中、どうしてもわからない英単語が出てきて辞書で探していると、“paint”という単語が目に入った。自ずと、私の頭のなかに美術室が出現した。
「…………」
ため息をついて眉間を押さえ、そっと目を閉じる。雨の音に包まれているからなのか、私の頭のなかのキャンバスにも、たくさんの筋が縦に走った。薄暗い背景に、水色、灰色、青、黒……。
自分がイメージした色に飲みこまれてしまうような錯覚に、パッと目を開ける。けれども、目を開けて見る光景も、たいして変わらないような気がした。
雨は、降り続いていた。