「梅雨入りですって」

廊下の窓のところの棚に頬杖をついて、朝から降り続ける小雨を見ながら涼子が話しかける。

「へー」

私はその横で、今日の塾で小テストがある英単語の暗記。

「頑張るねぇ」
「涼子も一緒に通う? 塾」
「ご冗談」

湿気で、体も心もジトジトする。美術部に顔を出さなくなって、2週間が経っていた。

「あ! 水島。ちょうどいいとこいた! そっちのクラス今日数学あった? 教科書貸して」

「あー、はいはい」

通りがかった諏訪くんに、教室から教科書を取ってきて渡すと、
「サンキュ」
と言われ、お礼にフリスクをケースごともらった。

「ひと粒しか入ってないんだけど」
「おう」

おう、って……。捨てといて、って意味が含まれているように、ニカッと笑った諏訪くん。私は、仕方なくそのひと粒を口に入れて、空になったケースをポケットに入れた。

「水島さん、怒っていいとこでしょ、そこ」

諏訪くんと一緒だった是枝くんが、クスクスと笑う。