「沙希、ちょっといい?」
動物園から帰ると、玄関を開けるや否や、お母さんにそう言われた。
あ、ヤバい……。
お母さんの表情と語気に、瞬時に非常事態を察知する。私は、重い心持ちで、お母さんのうしろをついて行き、リビングのテーブルの椅子に座った。
「今日ね、渡辺さんのお母さんとそこで会って」
3軒隣の渡辺さんち。その娘は私と高校は違うけれども、塾が同じだ。
「娘さんと話したときに話題が出たらしくてね、沙希が最近塾を休みがちだって言ってたらしいの。火曜日に休むことが多いって」
「…………」
「帰宅時間は塾の日と同じだったわよね?」
「…………」
正面に座って問いかけてくるお母さんの目を、ちゃんと見れずにうつむく。
「どういうことなの? 正直に言いなさい」
鼻から息を吐いて、苛立ちをにじませるお母さん。リビングがまるで、取調室みたいだ。
「……部活に」
私は、美術部のことを話すことにした。桐谷先輩のことは言うつもりはないけれど。