「あんなことできる人がいるなんて、信じられないよね」

私の言葉に、舞川さんは神妙な面持ちでうなずき、静かに口を開く。

「まり先輩から聞いたんだけど、あの作品、志望の美大側に推薦の判断材料として提出を課されていた作品だったみたい」
「え? 推薦の?」

そんな大事な作品だったってことに衝撃を受け、私は口に手を当てて言葉を失う。

「そう。だから、もしかしたら3年生で、同じ志望大学の人のやっかみとかかもしれないって、まり先輩言ってた」
「それって……」
 
私は舞川さんと顔を合わせる。たぶん、同じようなことを考えていると確信した。

そんな話をしていると、舞川さんがふいに、
「そういえばさ」
と、切り出した。

「あのあと、桐谷先輩と沙希ちゃん、一緒に美術室を出ていったって聞いたけど……どこ行ったの?」
「え?」

舞川さんは、ほんの少し照れているような、それでいてうかがうような視線を向ける。私は、舞川さんが桐谷先輩のことを好きだということを思い出して、
「えと……、は、林に行ったんだけど、たぶん、絵を見て泣いてしまった私を慰めるためだったんだと思う。なにもないよ」
と、しどろもどろになりながら答えた。