「舞川さん、重くね? そのバッグ。俺、持つし」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」
「あ! のど渇いたでしょ? 俺、ジュース買ってこようか?」
「だ、大丈夫」
「わー、見て見て、ペンギン! 舞川さんペンギン好き? 俺、超好き!」
「ハハ……」
目の前を歩く中野くんと舞川さんを見ながら、私は舞川さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
今日は土曜日。先日頼まれた動物園の日だ。
部活のときに舞川さんに話したら、快くOKしてくれた。無論、こんな猛アタックされるなんて思っていなかったからだろうけど。
中野くんのテンションの高さに、他のメンバーは誰もついていけていない。しかも、彼は最初から舞川さんの横を死守しているもんだから、対応する彼女が不憫でならない。
「うっわー、すごっ! 見てよ、沙希。あのライオンの眼光、痺れるわー」
……ここにいた。中野くんに負けないくらいのテンションの女が。
「ぐは。ヤバい。私、あのライオンに見初められてんじゃない? 私から視線外さないんだけど」
「おいしそうって思われてんじゃない? 涼子」
「ハハッ」
横に並んで話していた私と涼子のうしろで、中野くんが連れてきた男子のひとりが吹き出す。その声に振り返ると、彼は、
「最初から思ってたけど、ふたりって漫才してるみたいだよね」
とクスクス笑った。