すると彼は立ち上がり、おもむろに窓の外に目をやった。つられてわたしも同じ方を見て、「あっ」と声を出した。

山の中腹に建つこの家は、森の一部を見下ろせる位置にあったのだ。

そして、昨夜わたしが倒れていたと思われる岩場は、そこだけ木がないため目につきやすい。

つまり、さっきの“見てた”という言葉は、この窓からわたしの姿を見たという意味だろう。


「そっか……ありがとう」

――見つけてくれて、ありがとう。


森からこの家まで運ぶのは、さぞかし大変だったと思う。それに、もし救急車なんか呼ばれていたら、今頃わたしは親の元へと強制送還されていたはずだ。

見つけてくれたのが彼でよかったと、本当に思った。

改めてお礼を伝えると、彼はニコリと微笑み、「でも」と言った。


「なんで、ひとりで森に?」


痛いところを突かれて、言葉が出てこない。

まさか親や友達から逃げ出したあげく、昔の思い出をたどって森に入った、なんて初対面の人に話せないし。

そのとき思いついたのが、実里さんの言っていた“一人旅”という単語だった。


「えっとね、冬休みの一人旅で、この町に来たの。子どもの頃、あの森で遊んだ思い出があって……すごくキレイな景色を見たから、もう一度見たいと思って」


我ながら自然な言い訳ができたと思う。

前半は嘘で、後半は本当。ちょっとの真実を混ぜるのが嘘のコツだって、どこかで聞いたことがあるし。