「未来が見えても、良いことなんて、ひとつもない」



放たれた言葉は、吸い込まれるように青の中に消えていった。

つい先程まで、くっきりと跡を残していた飛行機雲が、空の蒼に滲んで曖昧なものへと変わっていく。

それはまるで、自分の未来を見ているようで、なんだか胸が苦しくなった。

未来が見えても、良いことなんて、ひとつもない。

たった今、雨先輩が口にした言葉が頭の中で木霊する。

それと同時に、私の中では何度も何度も同じ声が繰り返された。



「……何、言ってるんですか」

「え……?」

「未来が見えるなんて、お得ですよね」

「…………」

「だって、未来が見えるなんて、そんな便利なことってないじゃないですか」



思わず心の声を口にして、雨先輩と同じように手摺りに手を乗せ強く握った。

突然の私の言葉に、弾かれたように雨先輩がこちらを見る。

真っ黒な瞳は見開かれ、雨先輩が驚いたような顔をするから、私は視線を逸らすように前を向くと、唇を尖らせた。



「もしも私に雨先輩と同じ力があったら、私は自分の未来を毎日見ちゃいますよ」

「…………」

「何か、少しでも迷うことがあったら……例えば、見たいテレビ番組が同じ時間で重なってる時とか、どっちを見れば自分は楽しめるのかとか、色々」

「…………」

「自分の未来に迷わなくていいなんて、そんなに楽チンなことありません。それに、自分の未来を見るなら覗き見とか関係ないし、だから─── 」

「─── 自分の未来は、見えないんだ」

「え?」


「俺は、他人の未来は見えても、自分の未来だけは見えないんだ」