「雨宮(あめみや)、先輩……?」

「あれ。俺の名前、知ってたんだ」


名前を口にすれば、彼はキョトンと目を丸くして、首を傾げた。


─── 雨宮 蒼(あめみや そう)。

彼は高校二年生である私の一つ上で、高校三年生。

今年の夏に、この田舎町の学校に転校してきた変わり者だ。

噂では、前の学校で何か事件を起こして、この学校へと追いやられたのだとか。

確たる証拠もないのに噂だけが独り歩きするのは、閉鎖された田舎町の悪い風習の一つだ。

だけど、そうは思っても、高校三年生の夏に転校してくるなんて、何かしらの事情があってのことなのかもしれない……と。

思わず勘繰ってしまう私も、この田舎街の色に、十分に染められてしまっている。