空には飛行機が作った、一筋の雲の跡。

どうして飛行機雲は、いつ見ても宝物を見つけた気分になるのだろう。

子供の頃に置き去りにしたものはたくさんあるのに、こんな私の中にもまだ少しは、そんな " 特別 " が残っているのかな。



「……挨拶したのはカズくんなのに、それを無視するなんて失礼ですよ」



自分でも、理不尽なことを言っているとはわかっているけれど、うるさいくらいに高鳴る鼓動を誤魔化す術を私は知らない。

雨先輩は時々、聞いてる私が恥ずかしくなるようなことを平気で言う人だ。

私にだけ、なんて。まるで私を特別扱いしているみたいな、そんなこと。



「……別に、無視したくて無視したわけじゃないよ」

「……え?」

「ただ、あの時は後ろめたさもあって、声をかけ難かったんだ」

「後ろめたさ?」

「目が合って、不可抗力で未来が見えて後ろ暗かった。─── 将来、教卓の前に立って授業をしている姿。それに、子供たちと野球をしながら笑い合っている姿が見えた」

「…………、」



突然、何を言い出すかと思えば。

別に、雨先輩は私のことを特別扱いしているわけではなかったのだ。

続けられたのは、私の隣りにいたカズくんの未来の話。

雨先輩は、やっぱりあの時カズくんの未来を見ていて、そのせいでカズくんには後ろ暗さがあって声を掛け難かったってこと。



「あの時、二人が丁度、そんな話をしてたんじゃない?」



……当たり前かもしれないけど、一瞬、期待してしまった自分が馬鹿みたいだ。

というか、それならそうと、最初から言えばいいのに。

わかっていたら、一人で勝手にドキドキなんてしなかった。