この感覚は、もう何度目だろう。
何もかもを見透かされてしまうような、雨先輩の真っ黒な瞳。
静けさに包まれた空気と、時を忘れたような空間。
まさか、雨先輩……カズくんの未来を覗き見ようとしてるんじゃないでしょうね?
まさか、昨日のユリの時と同じように。突然、カズくんの未来を話しだすつもりじゃ───
「あ、雨せんぱ、」
「アメミヤ、おはよう!」
けれど、私が声を掛けるより先に、雨先輩へと声を投げたのはカズくんだった。
慌ててカズくんへと視線を移せば、カズくんは笑顔で片手を挙げて雨先輩のことを見ている。
「カ、カズくん、雨先輩と知り合いなの……?」
「え?知り合いっていうか、同じクラスだし」
その言葉に、思わず目を丸くした。
言われてみれば、カズくんと雨先輩は同級生なのだから知り合いでもおかしくない。
だけど、まさか、カズくんと雨先輩が知り合いだなんて思わなかったんだ。その上、同じクラスだなんて。
だって、カズくんと雨先輩って、まるで違う世界の住人な気がするから話している姿すら想像もつかなくて……
「あ、もしかして、ヘッドホンのせいで俺の声、聞こえてないか?」
カズくんの言葉を合図に、止まっていた雨先輩の足が動き出す。
その背中を押すように、開け放たれた窓から再び太陽の光が差し込んだ。
光の水溜りを踏みしめるように、一歩。また一歩。
リノリウムの床を擦る足音だけが響いて、思わず瞬きも忘れて立ち竦んでいる内に、私たちの距離はなくなった。