「ミウ、お前……なんかあったのかよ?進路の話がしても意味のないことだって、一体どういう───」

「……っ、」



ふわり、と。再び冷たい風が吹いた。

その風に言葉を攫われたカズくんに促されるように視線の行方を辿れば、下の階から今まさに階段を登ってきている人の姿が目に飛び込んできて呼吸が止まった。

今日もシャツの上に紺色のパーカーを羽織り、どこか非現実的な空気を漂わせている……雨先輩だ。

耳には大きなヘッドホン。そのコードの先は雨先輩の制服のズボンのポケットの中に、彼の両手と一緒にしまわれていた。

再び、ふわりと風が吹く。

─── と。
階段の踊り場で足を止めている私たちに気が付いた雨先輩が、突然、導かれるように足を止めて顔を上げた。

まるで、スローモーションのように視線と視線が交差する。

そうしてその目は私から、隣に立つカズくんへと極自然に移されて、時を忘れたようにその場所に留まった。



「─── 、」



一瞬、辺りを静寂が包み込む。

深い、海の底に沈んだような感覚。

真っ直ぐに、カズくんの目を見つめる雨先輩の視線に今までのことが蘇り、途端、心臓が大袈裟に高鳴りだした。