「あ、そういえばさ」
世間話をしながら階段を上り、二年生の教室のある階と、三年生の教室のある上の階とで別れる踊り場に差し掛かったところで、カズくんが唐突に足を止めた。
つられて足を止めれば、開かれた窓から冷たい風が迷い込んできて、私の髪を後ろへ揺らす。
「お前、進路表、まだ出してないんだって?」
「……え?」
「月曜日の昼休みに、お前が職員室で説教されてたって、野球部の奴が言ってたからさ」
突然の言葉に、思わず唇を引き結んだ。冷たい頬を髪が撫でて、慌てて片手でそれを押さえる。
……まさか、このタイミングでその話が出てくるとは思わなくて。というより、カズくんに知られているとは思わなかったから。
「お前、昔は将来の夢、俺に偉そうに言ってたじゃん。それ、もう、やめちゃったわけ?」
至極、当たり前のことのように尋ねられて思わず逃げるように視線を足元へと落としてしまった。
将来の夢。
確かに、そんな話をしていた頃もあったけど。でも、それは─── 私がまだ現実というものを知らない、子供だった頃の話だ。