「別に俺は、何がしたいとかじゃない。ただ、心配で待ってたんだ」

「心配……?」

「美雨が、落ち込んでないか……思い悩んでないか、心配で…………」

「いい加減にして……っ!!」



鼓膜を劈くような叫びは、私の喉の奥から出た心の声だった。

思わず両手で耳を覆って、力一杯瞼を閉じる。

───いい加減にして。人をからかうのも、馬鹿にするのも。もう、ウンザリだ。

一週間後に、私が死ぬ?そんなの、悪い冗談では済まされないって、どうして雨先輩は、わからないの。

続けて吐き出しそうになる言葉を飲み込んで、グッ、と奥歯を噛み締めた。

ゆっくりと、瞼を持ち上げて。ようやく動き出した足は、再び逃げるように雨先輩から距離をとる。

─── 帰ろう。

心の中で、その言葉だけを吐いた私は、そのまま振り返ることもなく真っ直ぐに、通い慣れた駅までの道を歩き始めた。



「美雨……っ!!」



けれど、そう名前を呼ばれた瞬間、今度は私の腕が痛いくらいの力で掴まれた。

グッ、と後ろへ身体が引かれ、足がもつれてその場に倒れ込みそうになる。



「あ……っ、ぶな」

「─── っ、」



思った以上に、身体には力が入らなかった。

そのまま今度は背中が温かい何かにぶつかって、よろめいたはずの身体が抱きとめられた。

力強い腕の中、ゆっくりと顔を上げれば、そこには置き去りにしてきたはずの雨先輩の綺麗な顔があって思わず息を呑む。