「来ないのかと思って、心配してた」

「な、何か、ご用ですか……?」



思わず一歩後ろへと足を引き、雨先輩へと言葉を投げる。

相変わらず風は冷たく頬を撫で、私の髪を、先輩の髪を、音もなく揺らしている。

視線の先、彼は表情をなくして私を見るから、途端にドクドクと心臓が不穏な音を立て始めた。



「昼間のこと、謝ろうと思って……随分、美雨を怖がらせるようなことを言ったから」



柔らかな、春を纏ったような声。

その声と言葉に、内心で大きく息を吐いた私は、雨先輩を真っ直ぐに見上げた。

そうか、雨先輩は、私に謝るために待っていてくれたんだ。

行き過ぎた、悪い冗談だったと反省したということだろう。

やっぱり、雨先輩は私のことをからかったんだ。

どうしてそんなことをしたのかわからないけれど、謝ってくれるというのなら、もうその気持ちだけで十分だ。



「……あの、お気になさらず。からかわれていたことは、もうわかったので、本当にあのことは─── 」

「もっと、別の言い方があったんじゃないかと思って」

「……え?」

「これから死ぬっていう絶望的な未来を伝えるなら、もっと、色々と言葉にも気を遣うべきだった」



「配慮が足りなくて、本当にごめん」と、そう続けた雨先輩に。たった今、先輩を許そうと思っていた自分を心底殴りつけたくなった。