その時に、雨先輩がどんな顔をしていたかはわからない。

けれど、少なくともそれまでの雨先輩は、何もかもが現実で、当然のことなのだと言わんばかりに真剣だった。



「ミウ……?もしかして、どっか悪いの……?」



突然わけのわからない質問をして黙りこんでしまった私を前に、至極心配そうな声を出したユリ。

彼女に現実へと引き戻された私は、慌てて無責任な質問をしてしまったことを謝った。



「ごめん、そういうんじゃなくて。なんとなく、どうなのかなぁって思っただけ。えぇと……最近読んだ小説で、そんな話があって……」

「なぁんだ。それなら良かった、突然変なこと言うから心配しちゃったよ」



胸に手を当て、ホッと息を吐いたユリを見て、やっぱりそれが普通の反応だよねと自分の感覚を取り戻す。

普通じゃないのは、雨先輩だ。

変なことを当然のことのように、本当のことのように……真剣に、言われた。

それを、鵜呑みにしてしまいそうになっている私は、雨先輩に感化されてしまっているだけに違いない。

何もかも、どこか現実離れした彼と、現実離れした話をしてしまったせい。