「昨日、俺が見たのは、土砂降りの雨の中……一生懸命自転車を漕いで帰る、きみの姿」
差し出されたその紙が、一体なんなのか。
そんなこと、言われなくてもわかってしまう。
「それと、もう一つは、この白紙の進路表を探しにここへ来て…………その扉の前で俺を見ながら、立ち竦んでいる姿」
「─── 返して、くださいっ!」
思わず駆け出して、私は雨先輩の手の中の進路表を引ったくるように奪った。
幸い、タイミングよく雨先輩が手を離してくれたおかげで、破れることもなく私の手に返ってきた進路表。
白紙の進路表を見られた恥ずかしさで、思わず力一杯それを握った私を見て、何故か雨先輩は小さく笑みを零した。
「ごめん、後半は嘘。俺が見たのは、ずぶ濡れになってるっていう前半の未来だけ」
「え……?」
「これは昨日、俺の足元に飛んできたのを拾ったんだよ」
「……拾った?」
「気付かなかった?きみの手から、零れ落ちてきたのに」
雨先輩が言うには、私がいつの間にか手放した進路表を、彼が拾って持っていてくれたということ。
「だって、無くちゃ困るだろ。自分の、未来」
その言葉に、一瞬、声を忘れて。
喉の奥を締め付けるような痛みが走って、強く握っていた手が、震えた。