「最低……っ!!」


思わず声を張り上げれば、雨先輩は叱られた子犬のように肩を落とした。

そんな先輩を前にしても、私の怒りは収まりそうもない。

本当に、この人は……やっていいことと、悪いことの区別もつかないんだろうか。

あんな、お母さんの話……たとえ嘘でも聞きたくなかったって、私の気持ちは無視!?

お母さんが死んだ方がマシだと思えるくらい辛い毎日を送るだなんて、そんなの、たとえ嘘でも言ってほしくなかった。


「嘘を吐いたことに関しては、ホントにごめん……ただ……」

「ただ……、なんですか?」

「ただ……どうしても、見たくなかったんだ。あの時は、俺も美雨が死ぬかもしれないって思ってたから、例え美雨のお母さんを通してでも、美雨がいない未来を見たくなかった」

「……っ、」

「もちろん、強がってる美雨の本音を引き出したかったっていうのもあったけど……うん、だから俺はあの時、咄嗟に嘘を吐きました」


雨先輩の、その言葉と同時に、再び身体が沸騰したように熱を持った。

その熱を覚ますように、屋上に吹く冷たい風が、私の頬を優しく撫でる。

何度も、何度も。

私たちを未来に導くように、強く、強く。