「雨、先輩……どうして、」

「あれ、言ってなかった? 俺は昨日、退院だったんだ。家にいても暇だし、色々学校に出さなきゃいけない書類もあるし、さっき来たとこ」


後ろ手で扉を閉めて、相変わらず何のこともないようにそんなことを言う。

それに、ほんの少しムッとしながら私の右側に立つ彼を見上げれば、先輩は不思議そうに私を見るだけで余計に腹が立った。


「退院の日を言い忘れてたのはもちろんですけど、今日学校に来るなら来るで、メールか何か一言入れてくれたら良かったのに!」

「あー、うん。それも、忘れてた。朝から、ばあちゃんの四十九日の話とかも聞いたりしてて、お墓にもまだ行けてないのになぁって」

「それは……私は、今日の午前中に、お母さんが仕事が休みだったので行ってきました。今日が検査結果を聞く日だったので、その報告も兼ねて」

「その結果、俺だってまだ聞かされてないよ。それなら、おあいこじゃない?」

「……っ、言っときますけど、雨先輩は、これで2回目ですからね! 入院中の検査結果が出た日だって─── その " 右目 " のことも、言うのを忘れてたって堂々と言ったんですから!」


言いながら、私は眼帯のされた雨先輩の右目を指差した。

そうすれば、バツが悪そうに眉を下げ、ついでに私から目を逸らした雨先輩。


「これは、忘れてたんじゃなくて……ただ、言い難かっただけだよ。俺が、 " 右目の視力を失った " なんて知ったら、美雨は絶対に、罪悪感を感じて自分のことを責めると思ったから」


再び風が吹き、雨先輩の前髪を揺らした。

そうすれば、ハッキリと眼帯が空気に晒され、痛々しさに思わず目を逸らしそうになる。

だけど私は、その光景から目を逸らしてはいけないんだ。

雨先輩が失った世界から、私は決して、目を逸らしてはいけない。