「雨、先輩……?」



その姿に、思わず口を開くと引き寄せられるように彼はゆっくりと振り向いた。

今日も冷たい風が、私の頬を痛く、なぞる。

シャツの上に羽織られた校則違反であろう紺色のパーカー。薄いチェック模様の入ったグレーの制服のズボン、モノトーンのシンプルなスニーカー。

無機質な鉄の手すりの上に手を置いたまま、私を真っ直ぐに見つめる雨先輩だけが、どこか現実から切り離されているようだった。



「また来ると思ってた。っていうか、今日も来るって知ってた」

「……っ、」



その言葉に、思わず跳ねる鼓動。

私が今日も来ることを知っていたと言う雨先輩は、本当に、未来でも見えていると言うのだろうか。

一歩、屋上へと足を踏み入れれば、背中の扉が風で乱雑に閉まる。



「か、からかってるんですか?」

「からかってるのかどうかは、自分で考えてみたら?」



そう言うと、緩やかに口角を上げて微笑んだ彼は、唐突に制服のズボンのポケットへと手を入れた。

その手を視線で追い掛ければ、再び出された雨先輩の手には、綺麗に折られた一枚の紙が握られている。