《お願い、ミウ! お母さん、今から仕事に戻らなきゃいけないから、ソウくんに伝えて! 早くしないと……っ、早くしないと、トキさんに、もう二度と会えなくなっちゃうって……!》
「……わかった」
自分でも、驚くほど冷静な声が出た。
私の言葉を合図に、お母さんが朝のように「お願いね」と念を押して電話を切る。
耳から聞こえる機械的な電子音を確認してから、私は拳を強く握ると自分の部屋へと走った。
クローゼットを開け、今日は絶対に着ないと決めていた制服を手に取る。
……私って、本当にバカだ。雨先輩の携帯電話の番号を聞いていなかったことに、今になって気がつくなんて。
制服のブラウスに腕を通しスカートを履くと、襟元にリボンをつける。
自分の手が震えていることに気が付いて、思わず苦笑いが零れた。
学校の中にいる雨先輩に会いに行くのなら、制服を着て行かなきゃいけない。
突然、制服以外の服を着て私が現れたら、無駄に注目を浴びて、運悪く途中で先生に見つかれば足止めを食うかもしれないから。
「行かなきゃ……」
鏡の前に立ち、自分自身に言い聞かせる。
今は、一刻も早く雨先輩のところへ。
一刻も早く─── 屋上にいるであろう、雨先輩のところへ行かなきゃいけないんだ。