「すみません、急に、こんなお願いしちゃって! でも……最後なので、ワガママ聞いてくれませんか?」


そう言って、隣に立つ雨先輩を見上げれば、綺麗な黒が滲んだ瞳と目が合った。

ドクドクと、高鳴る心臓。それに聞こえぬふりをして、私は雨先輩の返事を待った。


「……見に行く、必要はないよ」

「え……?」

「美雨のお母さんの未来なら、三人でお昼ご飯を食べようって話した時に見たから」

「……っ、」

「毎日泣いて……泣き崩れて、ご飯も食べれず立ち直れなくなって、今の元気な姿からは想像もできないくらいに痩せ細って苦しんでた」

「嘘…………」

「嘘じゃない。俺が見た未来で、美雨のお母さんは死んだ方がマシだって思えるような辛く苦しい毎日を過ごしてた」

「…………っ、」

「生きているのに、死んでいるような毎日だった」


その言葉に、思わず両手で口元を覆った。

同時に、鼻の奥がツンと痛んで涙が堰を切ったように溢れ出す。

お母さんは強い人。だから、私が死んでも大丈夫。

─── 私は、なんて最低な勘違いをしていたのだろう。

お母さんは、強い人だから。お母さんならきっと大丈夫だろうなんて、どうして自分に都合の良い方向ばかりに物事を考えていたんだろう。