「美雨、俺は─── 」
「雨先輩にっ、お願いがあります!!」
「……え?」
言葉の続きを聞くのが怖くて、思わず遮るように声を張り上げれば、雨先輩は目を丸くして固まった。
思わず先輩から目を逸らし、足元へと視線を落とす。
踏み締めた地面には、土に汚れた黄金色の葉。
私は一瞬だけ唇を噛みしめると、カラカラになった喉から声を振り絞るように、繋いだ手を静かに離した。
「美雨……?」
「こ、このあと、病院に戻る途中で……私の家に寄って、私のお母さんの未来を見てくれませんか!」
「え……美雨の、お母さんの未来……?」
「はいっ。実は、ずっと気になっててっ。私の家って母子家庭だし、もしもこのまま本当に明日、私が死んじゃったら、お母さん、独りぼっちになっちゃうので……」
「…………」
「私としては、私が死んだあともお母さんには笑顔でいてほしいんです! ……元気でいてほしいので。それに、お母さんの、そんな未来を知れたら、私も少しは気が楽になるし」
言いながら、私は空になった手に拳を作り、精一杯の笑顔を浮かべて雨先輩を見上げた。
雨先輩の言葉を聞かないために始めた話だった。けれど、これは本当にこの一週間、ずっとずっと気掛かりだったこと。
もしも、私が死んでしまったら。
お母さんは、私がいなくなったあとに、どうなるんだろう……って。
さすがに娘が死んでしまったら、お母さんだって泣いて途方に暮れるだろう。
だけど、私のお母さんは女手一つで私を育てるくらいの人だから。私の夢を、笑顔で応援してくれるくらいに強い人だから、月日が経てば今まで通りの生活に戻れるだろう。
この一週間で、心の中ではそんな答えに辿り着いたのだけれど、やっぱり死ぬ前に、ちゃんと知っておきたかった。
そうすれば……もしもの時も、私は安心して、この世界から旅立てる。
もし、本当に明日死んでも……きっと、後悔なく旅立てる。