「今、思えば……なんで、その時に気が付かなかったんだろう。死んじゃったじいちゃんも、俺と同じ力があったんだってこと。その時は、何も考えずに、ただ、ばあちゃんの話を聞いてただけだった」


繋がれたままの手に、そっと力が込められる。

一瞬、その手に視線を落としてから、私はすぐに顔を上げると雨先輩の綺麗な横顔を真っ直ぐに見つめた。


「でも、ばあちゃんはその時、変なことを言うじいちゃんから逃げずに、言ったんだって」

「何を……ですか?」

「 " 本当に未来が見えるなら、私の未来を見てください " 」

「え……?」

「そう言ったら、じいちゃんは一瞬目を見開いて固まったあと、今度は泣きそうな顔で笑ったって」

「…………、」

「そのまま真っ直ぐに、ばあちゃんを見て。 " きみは明日、突然降る俄雨のせいで、ずぶ濡れになるよ " ……って、小さく笑った」


─── 風が、吹く。

その風は私と雨先輩の間を通り抜け、私たちを取り囲む木々の葉をザワザワと揺らした。

思わず雨先輩の手を強く握れば、返事を返すようにその手に力が込められる。

……そんな、話。

そんな、どこかで聞いたことのあるような話、しないでください。

まるで、私たちが出逢った時と同じように。

誰かの話とも思えない話を、どうして今、この場所で……このタイミングでするんですか?


「出逢った、その瞬間に……きっと2つの未来は重なった」


雨先輩のおじいさんは、大切な人の命を守るために、自分の命を失った。

掛け替えのない命を守るために、自分が見た未来を変えたんだ。

そんなおじいさんと、雨先輩が似ているのなら。

まさか、雨先輩は……ううん、そんなはずはない。

雨先輩と私の間には、二人のような確かな絆なんてない。

自分の命を投げ出すほど、私たちを繋いでいる何かは大きなものではないはずだから。