「ここ、俺がこの町で一番好きな場所なんだ」

「すごい……」


両脇に黄金色に輝く木を従えて、その木々の間から広がるのは、私が住む町の景色。

建ち並ぶ家々は豆粒のように小さくて、私がいつも乗っている電車は僅かに何かが動いている気配を感じさせるだけ。

ぽっかりと地面に穴が開いたように広がる田んぼや畑に、所々生い茂る木々は公園か小さな森か。

遠くには海が広がっていて、青い空と深い蒼が重なる場所だけが、白い線を引いて途切れることなくどこまでも続いていた。


「昔……俺がまだ小さい頃。ばあちゃんが、今みたいに俺をここに連れてきてくれたんだ」


ぽつり、ぽつり、と。木の葉の揺れる間で声を紡ぐ雨先輩を見上げれば、先輩の向こうに小さな鳥居が見えた。

その先には社があって、ここが小高い山の上に造られた、小さな神社であることに気付く。


「それで初めてこの景色を見て、今の美雨と同じ様に感動してる俺に、ばあちゃんが話してくれたことがあった」

「……話してくれたこと?」

「俺の、じいちゃんのこと。ここは、じいちゃんとばあちゃんが初めて出逢った場所なんだって」

「え……」

「ばあちゃんがまだ若い頃。たまたま、ここに登ってきたら、今俺たちが立っている場所で、じいちゃんは俺たちと同じようにこの町の景色を眺めてたって、ばあちゃんは言ってた」


─── 同じ、景色を。

雨先輩の言葉に再び町の景色に目を向ければ、何故か私に見えたのは、初めて出逢った二人が互いを見つめ合う場面だった。

実際は、見えたわけじゃない。見えている気がしているだけ。

二人が出逢った場面を、私は雨先輩の話を通して見ているだけだ。