「─── 雨先輩、どこまで上るんですか!?」


けれど、そんな自分の決断を後悔するまで、そう時間は掛からなかった。

両膝に手を置き、肩で息をしながら抗議の声を上げれば、数段先にいる雨先輩が清々しい笑顔で「もう少し」と、笑う。

ほんの数十分前、雨先輩の寄り道の誘いを二つ返事で快諾した自分を、叱りつけたい。

だけどまさか、こんなことになるとは思わなかった!

目の前には、一体どこまで続くのかと目眩さえ起こしそうな段数の階段。

実際、上り途中の私は目眩を起こしかけているし、息切れだって治まらない。

雨先輩に言われるがまま、雨先輩の家から少し離れた場所にある小高い山の登り口前まできたところで、嫌な予感はしてたんだけど。

生憎、偶然にも準備万端にスニーカーを選んで履いてきていた私を見て、「この階段を上るんだ」なんて言った雨先輩は、今と同様に笑っていた。


「美雨って、意外に体力ないんだな」

「逆に、なんで雨先輩は、そんなに元気なんですか……!」

「それは……俺も一応、男だし」


言葉と同時に、目の前に差し出された手。

一瞬その手を取ろうか躊躇すれば、そんな私の心情も知らない雨先輩に右手が攫われた。


「あと、もう少しだから。一緒に頑張ろう」


優しく引かれた手。その手の温もりに顔を上げた私は、結局最後まで、この寄り道に付き合うことになった。