そこまで言うと、雨先輩は声を詰まらせた。
雨先輩のおじいさんは、自分の娘である雨先輩のお母さんの命を救うために、禁忌を破った。
その代償として、自分の命を失ったのだ。
当然、命を失ったら未来を見る特別な力も失うに決まってる。
つまり……雨宮家の言い伝えは、特異を失うことは、命を失うことと同じなのだとでも言いたいのだろうか。
そんな馬鹿なこと、あるはずがないのに。未来を見る特別な力なんか、その人自身の命に比べたら、大したことでもなんでもない。
「じいちゃんに、俺と同じ特異があったなんて……母さんも、ばあちゃんも、一度もそんなこと言わなかったから……じいちゃんは、ただ事故に巻き込まれて死んだんだって思って、俺は……っ」
雨先輩のお母さんが、雨先輩のおじいさんに未来を見る力があったことを知っていたかどうかはわからない。
だけど、雨先輩のおばあちゃんは……トキさんは、知っていたに違いない。
この手紙を、今日まで大切にしまい続けていたトキさんは、きっと。
残酷な真実を知っていたからこそ、トキさんは、禁忌を破った時に起こる代償の全てを雨先輩には伝えなかったんだ。……伝えられなかったんだ。
だって、こんな恐ろしいことを知ったら、それこそ雨先輩は、今以上に自分の運命を悲観してしまうかもしれない。
自分の未来に、なんの希望も持てなくなってしまうかもしれないから。
─── あなたに、何かあってからでは遅いの。
そう言ったトキさんの想いが、今更になって胸に刺さる。
トキさんは、恐れていたんだ。
雨先輩が、トキさんの旦那さんと同じように……雨先輩のおじいさんと同じように、突然、この世界から消えてしまうことを恐れてた。