「─── 雨宮 蒼助(あめみや そうすけ)」
手紙の最後には、やっぱり綺麗な字で、そう書き記されていた。
手紙を読み終えた雨先輩が、呆然と時間を忘れたように宙を見る。
誰から、誰に宛てた手紙なのか。
私は、ついさっき、そんな疑問に揺れたばかりだけど、この手紙を読み終えた今……その答えがなんなのか、わかってしまったような気がする。
これはあくまで私の推測で、もしかしたら間違っているかもしれないけれど、でも───
「……っ、じいちゃん、」
そう、きっと。私の推測が正しければ、この手紙を書いたのはトキさんの旦那さんで、雨先輩の、おじいさん。
雨宮 蒼助さんの言う彼女とはトキさんのことで、娘とは雨先輩のお母さんのことなのだろう。
「雨先輩……。雨先輩の、おじいさんって……」
「……俺が物心ついた頃には、じいちゃんは、もう死んでいて、この世界にはいなかった」
「…………、」
「……母さんが、俺を産んでしばらくした頃、俺たち家族が住んでいた家が火事にあったらしい。だけど偶然、田舎から出てきたじいちゃんが、家にいた俺と母さんを連れ出したお陰で、俺たちは火事に巻き込まれずに済んだって」
雨先輩の言う、その出来事が─── 雨先輩のおじいさんが見て変えた、雨先輩のお母さんの未来なのだろう。
「でも、その翌日に、じいちゃんは田舎に帰る途中で交通事故に遭ってそのまま……病院に運ばれた時にはもう意識もなくて、本当に突然亡くなったんだって、昔、母さんが話してた」