「─── ウ、ミーウ、ミウッ!聞いてる!?」
「わ……っ。ご、ごめん、何?」
つい、ぼんやりと昨日の出来事を思い出していれば、ユリの声に現実へと引き戻された。
いつの間にか強く握り締めていた、通学鞄の持ち手。
その手をそっと解いて隣を見れば、「だから、昨日の雨で携帯が壊れてさぁ」と、唇を尖らせるユリと目が合った。
「ねぇ……ユリ」
「うん?」
「雨宮先輩って、知ってる?ほら、三年の……」
薄く開いた唇から、溢れるようにその名前を零せば、ユリが元々大きな目を更に見開いて「もちろん、知ってるよ」と返事をくれる。
「アメ先輩でしょ!」
「雨、先輩……?」
「そうそう、みんな、そう呼んでるよ。呼び方が、" アマミヤ " と間違えやすいから、わかりやすいようにアメ先輩」
雨、先輩。
それはなんだか、呼ぶのが申し訳ないような……
本名だから仕方ないにせよ、その呼び方だと雨男みたいで、本人は嫌じゃないんだろうか。