「雨先輩さえ大丈夫なら、お願いします」
そう言って真っ直ぐに雨先輩を見つめれば、一度だけ小さく頷いた先輩は、再び私に背中を向けた。
そのまま家の奥へと続いている廊下を歩き、とある部屋の前で足を止める。
雨先輩が目の前の襖に手をかけて、ゆっくりと開くと今度は病室でも感じたトキさんの香りが私の鼻を僅かにかすめた。
「ここが、ばあちゃんの部屋。それで、この小物入れのことを、ばあちゃんは言ってるんだと思う。前から、 " 大切なものは、ここにいつも仕舞うようにしてる " ……って、話してたから」
12畳ほどの和室には、木のテーブルが一つと大小立派な造りの桐箪笥が3つ並んでいた。
その中でも一番背の低い桐箪笥の上に、雨先輩が言う小物入れはあった。
決して大きくはない、両手で持てば優に畳の上へと下ろせるほどの、木製の漆塗りの小物箪笥だ。
その小物箪笥の前で、数秒、二人揃って固まってしまった。
小物箪笥には、計4つの引き出しがある。トキさんのメモの通りなら、この一番下の引き出しに、トキさんが伝えたい " 何か " があるに違いない。