「雨先輩……?」


小さな紙を持ったまま呆然と固まっている雨先輩へと声を掛ければ、ハッとしたように顔を上げた先輩と目が合う。

そうして数秒、無言のまま視線を交わしていたけれど、再び我に返ったように紙へと目を落とした雨先輩は、手の中に収まる小さな紙を私に向かって差し出した。


「そこに書いてある小物入れって、ばあちゃんの部屋にある桐箪笥の上の……木の、小さい箪笥のことだと思う」


紙には雨先輩の言葉のとおり、トキさんのものであろう綺麗な字でハッキリと、こう書き記されていた。


「─── 私の部屋にある小物入れの、一番下の引き出しの中」


その文章を読み上げてから顔を上げると、今度は強い目を私に向ける雨先輩と目が合った。

そんな雨先輩の向こう側には、相変わらず眠るようにベッドの上で横たわるトキさんの姿がある。

いつ、目を覚ますかも。いつ、何かあるかもわからないトキさんの傍から、本当だったら片時も離れたくない。

だけど、きっと。これは……そんなトキさんからの、私たちに向けたメッセージだ。

トキさんは、小さな紙に記したその場所に─── きっと、私たちに向けた " 何か " を残してくれているに違いない。


「行こう」


雨先輩の言葉に、私は拳を強く握って顔を上げた。

これはきっと、小さな小さな希望の光。

吹けば消えてしまうような、小さな望みに過ぎないのかもしれないけれど……

今の私たちには空に輝く太陽よりも眩しく、力強い光だった。