「あの、これ……?」
「昨日の処置中に、トキさんが手に握り締めていたんです。昨日は、あのあともバタバタしていて……すみません、お返ししようと思って、今の今まで渡せずにいました」
言いながら差し出されたのは、二つに折りたたまれた、メモ帳か何かを千切った小さな紙。
それを雨先輩が受け取れば、再び頭を下げた看護師さんは足早に病室をあとにした。
残された私たちの元には、トキさんが握り締めていたという紙。
お母さんと三人でお昼休憩の為に部屋を出る前には、トキさんはそんなものを手に持ってはいなかった。
それまでも何かを書いている様子もなかったし、書こうとする仕草も見せてはいない。
だけど、だとしたらそれは……間違いなく、私たちが出て行ったあとにトキさんが手に取った何かに違いない。
「雨先輩……、」
思わず声を絞り出せば、手の中の紙から顔を上げた雨先輩が、私を見てキュッ、と唇を結んだ。
それから数秒トキさんへと目を向けたあと、再び手の中に収まる紙へと視線を落とした雨先輩は、開けてはいけない扉を開くように、ゆっくりと、折りたたまれていた紙を開いた。
「……ばあちゃんの部屋の、小物入れの中?」
「え?」
けれど紙を開いてすぐ、そんな言葉をこぼした雨先輩を前に、私も思わず動きを止めた。
─── トキさんの部屋の、小物入れの中。
私の聞き間違いでなければ、雨先輩は今確かにそう言った。