「すみません、驚かせてしまいましたか?」
「いえ、あの……こちらこそ、すみません」
つられて、なんとなく謝れば、今度はクスリと笑われる。
看護師さんは、そのまま歩を進めてトキさんの前で足を止めると、トキさんに繋がれた点滴や機械を一通り確認しながら「今日も、良い天気ですね」と、私たちに声を掛けた。
その仕事の一つ一つを目で追っていれば、不意に機械から顔を上げた看護師さんと目が合い、ニコリと微笑み返される。
再び恐縮してしまった私が慌てて視線を下に落とせば、邪魔にならないようにと席を立っていた雨先輩が、看護師さんに向かって頭を下げた。
「ずっと居座って、すみません。お仕事の邪魔だったら、部屋から出てます」
「いいえ、大丈夫ですよ。寧ろ、トキさんに、たくさん話し掛けてあげてください。今は、ご家族の声が一番トキさんには心強いと思いますから」
看護師さんの言葉に、ほんの少しホッとしたように息を吐いた雨先輩。
そのまま一通りの確認を終えたらしい看護師さんは、私たちに軽く会釈をしたあと、病室から出て行こうと踵を返したのだけれど、
「……ああ、そういえば」
部屋を出る直前、何かを思い出したかのように足を止めると、ポケットの中から、唐突に一枚の紙を取り出した。