「……結局、未来を変えるためのヒントも聞けなかったな」


ぽつり、と。雨粒が落ちるような声色で言った雨先輩の言葉に俯いていた顔を上げる。

雨先輩はパイプ椅子に座ったままトキさんを見つめていて、その後ろ姿を見ただけで鼻の奥がツンと痛んだ。

そんなこと、今は気にしなくていいのに。

自分が辛い時くらい、私のことなんて考えなくてもいいんです、雨先輩。

心ではそう思うのに、何一つ声にすることはできなくて唇を噛み締めた。

今、口を開けばきっと、言葉と一緒に涙まで溢れてしまうだろう。

雨先輩とトキさんを前に、私はきっと泣いてしまう。

だけど今、一番泣きたいのは私じゃない。雨先輩が泣いていないのに、私が今、泣くわけにはいかないから。


「どうしたらいいのか考えたけど、もう、何一つ、手掛かりがないんだ……」


─── きっと、最後の希望がトキさんだった。


それは、私だけでなく、雨先輩にとっても。

トキさんの存在を通して、私たちは未来を見ていたのだ。

けれど、掴もうとしても手の平を擦り抜ける未来。掴みたいと思って前に足を踏み出したはずなのに、呆気無く行き止まりにぶつかってしまった。

一体、どうすればいい? どうすれば、現状を変えられる?

それとも、私たちにはもう、何もできることはないの?


「─── 失礼します」


と、不意に。コンコン、というノックの音が部屋に響いて、私たちは弾かれたように振り向いた。

同時に、ゆっくりと開いた扉。

そこから顔を覗かせた可愛らしい看護師さんは、私と雨先輩を見て一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐに柔らかに微笑むと後ろ手で開いていた扉を閉めた。