「すごく危険な状態で、このまま、目を覚まさないかもしれないって」
あのあと、食堂を出てトキさんの病室に戻った私に、ベッドの前で立ち竦んでいた雨先輩が、静かな声でそう言った。
つい1時間ほど前までは、優しく微笑んでいてくれたはずなのに。
今、目の前には酸素マスクをつけてベッドの上に横たわり、眠ったように目を閉じているトキさんがいる。
たった、1時間前の話だ。たった1時間で、こんなにも未来が変わってしまうものだろうか。
窓の外に見える景色も病室内の風景も何ひとつ変わっていないのに、真ん中で眠るトキさんだけが私たちのいる空間から切り離されているように思えた。
* * *
「ミウ、今日も病院に行くの?」
日曜日の朝、仕事が休みのお母さんが、休日だというのに朝早くから出掛ける準備をしていた私に声を掛けた。
靴箱を開け、中からスニーカーを取り出すと無造作に足元へと投げる。自転車の鍵を持ち振り返れば、心配そうに私を見るお母さんと目が合った。
「うん。トキさんが心配だし、雨先輩のことも気になるから」
「そう……わかった、気を付けてね」
眉を下げ、切なげに微笑んだお母さんに、「いってきます」と言葉を渡して外に出た。
空は相変わらず青く澄み渡っていて、私は自転車に跨ると、逸る気持ちを連れて病院へと急いだ。