「お母さん? 何か急ぎの仕事?」


胸騒ぎがする。ザワザワと揺れる木々、遠くで吹く風の音。


「……トキさんが、」

「え?」

「トキさんが、急変したって」


澄んだ青い空に舞う黄金色は、精一杯命を燃やして輝いた証だ。

残された私たちが必死になってそれを捕まえることは困難で、いつの間にか指の間を擦り抜けて手の届かないところまで飛んでいく。


「ソウくん、私たちも戻りましょう」


お母さんの言葉を合図に、呆然と前を見据えていた雨先輩が、弾かれたように席を立った。

そのまま、言葉もなく走り出した雨先輩の背中を、私は抜け殻になったように見つめるだけ。


─── 気が付けば、食堂内に午後の一時を告げるチャイムの音が響き渡った。

その音に、ようやく我に返って顔を上げた私は、慌てて窓の外へと目を向けた。

黄金色に輝く葉。風が吹くたびに宙を舞う一枚一枚が、私の知らない場所へと消えていく。

もう二度と会うことはないと、サヨナラを告げているように。青く澄んだ空に消えていく。

だけど、お願い。もう少しだけ、待って。

冷たい風が窓を叩いた頃には先ほど流した涙の跡は乾いていて、タイムリミットが近いことを私に教えているような気がした。