だから私は、今ここで逃げたらいけない。

もう一度、向き合わなきゃいけないんだ。

自分の未来と向き合うということは、自分の夢からも逃げないということ。

私は、自分の未来を変えるために、今ここにいるんだから。


「……お母さん、私、ね」

「うん?」

「私、看護師になりたい」

「え……」

「私、お母さんみたいな看護師になりたいの。お母さんみたいに、少しでも多くの人の助けになりたい。困っている人の力になれるような、看護師になりたい……!!」


真っ直ぐに。力強く言い切れば、お母さんは一瞬驚いたように固まってから、とても幸せそうに微笑んだ。


「……そう。話してくれて、ありがとう」


その言葉と、お母さんの笑顔を見た瞬間、涙の雫が頬を伝って零れ落ちる。

だって、お母さん。私が夢を追いかけたら、お母さんはまた大変な思いをするんだよ?

自分のこと、自分の時間を持つことも、まだまだ先の未来になっちゃうんだよ?

それなのにどうしてお母さんは、そんな風に幸せそうに笑うの?


「そっかぁ。ミウが話したいって言ってたことも、そのこと? でも、それならお母さん、まだまだたくさん頑張らなきゃね!」

「どうして……?」

「え?」

「お母さんは……どうして私のために、そんなに頑張るの? 私が進学することに決めたら、お母さんはまた大変になっちゃう……っ。私が夢を追いかけたら、未来のお母さんに、また迷惑を掛けることになるのに……」


サラサラと、風が木々を揺らす音がする。

思わず俯いて唇を噛み締めれば、胸いっぱいに罪悪感が広がった。

ワガママを言っている。お母さんのこと、悩ませたくなんてないのに、私はまた子供みたいなワガママを言って、お母さんを困らせている。


「……バカねぇ、ミウは」


だけど、そんな私の胸の内を見透かしたかのように、旋毛にはお母さんの温かい声が落ちてきた。

ゆっくりと顔を上げれば頬杖をつきながら、私を優しく見つめるお母さんの瞳と目が合う。