「……ごめん、なんでもない。大丈夫だから、気にしないで」
「でも……」
「大丈夫! ほんと、どうでもいいことだから気にしないで! あー、お腹空いた! 早く、ご飯食べよ!」
「……ミウ?」
「ほら、早くしないとお母さんが頼んだカレーライスも、私と雨先輩のオムライスも冷めちゃうよ! それに、お母さんの休み時間も終わっちゃう!」
けれど、私がそう言って笑顔を見せた瞬間。不意に─── スプーンを持った手を、掴まれた。
弾かれたように顔を上げ、掴まれた手の先を辿れば私を真っ直ぐに見据える黒い瞳。
吸い込まれるようなその色に、思わず息を呑めば掴まれていた手に、そっと力が込められた。
「もう、逃げないって決めたんだろ」
「……っ!」
「未来を変えるって、それは弱い自分に負けないってことじゃないのか? 自分の気持ちに嘘を吐いた先にある未来なんて、見てみたいと思うのか?」
雨先輩の言葉に、私は思わず視線を下に落して喉の奥に言葉を詰まらせた。
「一緒に未来を変えようって、決めただろ」
風が、吹く。強く窓を叩きながら、何度も、何度も。
弱い自分に、負けたくない。だから私は、もう一度頑張ってみようと思った。未来を変えたいと思ったんだ。
最後にもう一度だけ、希望を持ちたいと、そう思った。