ふわり、と。風が吹いて窓の向こうの黄金色を大きく揺らした。

お母さんの言葉に、隣の雨先輩が小さく息を呑んだのがわかった。

いつの間にかスプーンから離された手は膝の上で握られていて、音もなく震えている。


「だからね、お母さん、今すごく嬉しい。ミウの彼が優しい人で。ミウが選んだ相手が優しい人で……お母さん、とっても嬉しいの」


そう言って柔らかに微笑むお母さんの目には、嘘は少しも混じっていなかった。

そんなお母さんから、そっと目を逸らして俯くと、何かを堪えるように唇を結んだ雨先輩。

相変わらずテーブルの下に隠れている手は震えていて、たったそれだけで今の雨先輩の気持ちが伝わり、胸の奥が苦しくなった。

雨先輩にとって、トキさんはたった一人の家族で、行き場をなくしていた自分を受け入れてくれた人。

温かく優しいトキさんがいたから、雨先輩は今ここに存在しているんだ。

だけど、そんなトキさんは今、身体を悪くして入院している。

先ほどの、タクちゃんとトキさんの言い合いや、雨先輩からの話を聞いた限りでは、トキさんの身体は随分悪い状態なのかもしれない。


「え、と……急に、ごめんね。ペラペラと一人で喋って、野暮な詮索ばかりしちゃって……。突然、こんなこと聞かれたら嫌になるよね?」


黙り込んでしまった雨先輩を前に、お母さんは雨先輩が気を悪くしたと思ったのだろう。

申し訳なさそうに眉を下げると、苦笑いを零してから「ご飯食べよう」と、改めてスプーンを手に持った。

その様子を視界に捉えながら、私は一度だけ強く拳を握ると小さく息を吐き、顔を上げる。


「……すごく、優しい人だよ」

「え……?」

「雨先輩。お母さんの言うとおり、すごく優しい人で、私のことをいつも真剣に考えてくれる」


気が付いたら、私は真っ直ぐに前を向いて、迷うことなくそう言い放っていた。

突然の言葉に、隣の雨先輩が弾かれたように顔を上げ、驚いたように私を見る。