「もう、驚いちゃった。まさか、ミウがいるなんて思わなかったから」
タクちゃんと別れたあと、トキさんの病室に戻ってきた私は今更になって、ここがお母さんの働く病棟であることに気が付いた。
トキさんの状態を診ながら、お母さんが柔らかに笑って私と雨先輩を見る。
なんとなく、居た堪れなくなった私は視線を下に落としたまま小さくなってしまった。
だってまさか、こんな風にお母さんと遭遇するとは思わなかったから。
そりゃあ、今私がいる場所はお母さんの職場で、お母さんと会うことだって有り得るに決まっているけど、あまりに突然すぎて心の準備ができていなかったんだ。
……雨先輩とのことも、私がここにいる理由も、どう説明したらいいのかわからない。
「ミウちゃんは、うちの孫のお友達なんですって。今日は、孫が私の話し相手にって連れてきてくれたのよ」
「え……」
だけど、そんな私の心情を察したように助け舟を出してくれたのはトキさんだった。
トキさんの言葉に、お母さんが腕時計を確認していた顔を上げて目を丸くする。
「あら、そうなの? ミウ、そんなこと全然教えてくれないから」
「最近仲良くなったみたいでね、ミウちゃんもお母さんに話しそびれちゃったんじゃないかしら」
「確かに、ここのところ中々ゆっくり話す時間が取れなかったので……。だけど、そうだとしてもミウったら、来るなら来るで、朝、一言言ってくれたら良かったのに」
「きっと、お母さんの仕事の邪魔をしたくなかったのよ。でもまさか、ソウちゃんが連れてきた子がサカキさんの娘さんだなんて、こんな素敵な偶然、なかなか無いわよねぇ」