お母さん……?
「すごく、大切な話じゃない。ミウの未来に繋がる、とても大切な話」
そう言うお母さんの手が小さい頃にしてくれたように優しく私の頭を撫でるから、それだけで握り締めた手から力が抜けていく。
そのまま、縋るようにお母さんを見つめてしまった。
そんな私を受け止めるように柔らかに笑ったお母さんは、今度は私を諭すようにゆっくりと口を開いた。
「進路のこと、お母さんに話す気になってくれて、すごく嬉しい。実はね、お母さんも気になってたんだ。ほら、来年はミウも高校三年生だし、そろそろ本格的にそういう話になるかなって思ってたの」
その言葉に、なんと返事をしたらいいのかわからなかった。
……だって、私は。私は、もしかしたら、その未来を見ることはできないかもしれない。
このままだと私に残された時間は、あと2日。
高校三年生。当たり前に迎えるはずだったその年が、今はとても遠く感じてしまう。
「お母さん、私─── 」
「わかった! じゃあ、今日こそ必ず早く仕事を終わらせて帰ってくるわ。そしたら、色々話そうね! お母さん、ミウの話し聞くの楽しみにしてる」
そう言って、笑顔を見せたお母さんを前にしたら、もう何も言えなくなった。
「いってきます」と出て行くお母さんの背中に、「いってらっしゃい」と小さく返事をしてから、誰もいなくなった玄関をぼんやりと見つめた。
並んでいるのは、お母さんと私の靴。
今日まで、たった二人。一緒に歩いてきた証。
「…………っ、」
一体、どれくらい、そうしていただろう。
いつの間にか、涙の雫が頬を伝って零れ落ち、床に小さなシミを作った。
お母さん……ごめんなさい。
お母さんを独り残していく自分は、どうしようもない親不孝者だ。