「タクちゃん……いつから、そこに……」
「ジュースのペットボトルを忘れたから取りに来たんだ、そしたら部屋の中から声が聞こえて……」
眉根を寄せたまま、男の子が言う。
そうしてタクちゃん、と呼ばれたその子は、呆然とする私たちを尻目に部屋に入ってくると、雨先輩の前で足を止めた。
「それよりも……兄ちゃん、今の話、本当か? 未来が見えるって、本当なのか?」
「……っ!」
「なぁ、兄ちゃん。兄ちゃんには、本当に人の未来が見えるのか!?」
ヒュッ、と。喉の奥が鳴る。
それは、雨先輩の力を知られてしまったという不安だけでなく、目の前の縋るような、真剣な目を見てしまったから。
エレベーターで会った時の、どこか冷めたような目をした男の子はどこにもいない。
まるで藁をも掴むように、雨先輩を見つめる男の子は固まったままの雨先輩の腕を強く掴むと大きく揺らした。
その手が、小さく震えている。
そのまま、その男の子─── タクちゃんは、一度だけ唇噛み締めてから意を決したように、ゆっくりと口を開いた。
「─── 俺の、未来を見て」
もしも、生まれながらに渡された運命に抗おうとしたのなら。それは、罪になってしまうのかな。
自分の未来を知って、それを変えようとするのは間違っていることなのか、今の私には答えを見つけることは難しい。
「お願いだから。俺がいつ死ぬのか、教えて」
窓の外で、黄金色の葉が揺れた。
音もなく、零された涙の雫。散る運命にあるその葉たちは、最後の最後に一体何を願うのだろう。