* * *



「……はい、どうぞ」



ナースステーションを通り過ぎ、廊下を歩いた先で雨先輩が足を止めたのは、とある病室の前だった。

扉を軽くノックした雨先輩の向こうに、【雨宮 トキ】と書かれた札が見え、一瞬、胸が高鳴った。

雨宮、って、まさか……

恐る恐る、雨先輩へと視線を移してみたけれど、雨先輩は何を気にする様子もなく、目の前の扉を無造作に開けた。



「あらぁ、ソウちゃん。今日は随分早いのね」

「ばあちゃん、調子はどう?」

「うふふ、今日は大分いいのよ。ここのところ、晴れの日が続いているお陰かしら」



ばあちゃん、と雨先輩に呼ばれたその人は、病室の真ん中に置かれたベッドの上で上半身だけを起こし、雨先輩を見つめていた。

雨先輩が入ってきた瞬間、ふわり、と。花が咲いたような笑顔を見せたおばあちゃん。

ああ、きっと、雨先輩の……おばあちゃんだ。

なんとなくだけれど、笑った時の笑顔と印象が、雨先輩に似ている。

優しく緩められた目元、ゆるりと弧を描いた唇。

その、春を纏ったような雰囲気に気を取られてぼんやりとしていれば、私の視線に気が付いたらしいおばあちゃんが、不意に雨先輩の斜め後ろに立っていた私へと目を向けた。



「あら……? はじめまして。ソウちゃんの、お友達? とっても、可愛い子ね」



優しく、細められた目。

渡された声もとても柔らかで優しくて、向けられる全てに一瞬で心が安心感で満たされた。