「本当に、気を付けろよ」

「ご、ごめんなさい……」



肩を落として素直に謝れば、今度は「ふんっ」と鼻を鳴らされた。

なんとなく、だけれど。この子……長いこと、ここに入院している子だったりするのかな?

彼の容姿や雰囲気から、そんなことを想像させる。

つい眉間にシワを寄せて、目の前の男の子を見つめていれば、私の視線に気がついたその子が突然、意味深に微笑んだ。

その笑顔はとても冷たく、私が知っている中学生の無邪気さの欠片もない笑顔で、一瞬、ゴクリと喉が鳴る。



「今度からは、気を付けろよ。オバサン」

「オ…………オバサン!?」

「オバサンだろ。物珍しそうに人の顔ばっか、ジロジロ見て。そんなに " 可哀想 " に見えるかよ、この俺が」

「……っ!!」



その言葉に、今度こそ返す言葉を失った。

けれどその子は、青褪める私を見て馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、さっさとエレベーターに乗って扉を閉めて行ってしまった。



「美雨? 大丈夫?」

「オバサン……」



ぽつり、と。零した言葉に、雨先輩が「最近の子は生意気だな」と苦笑いを零した。

だけど、渡された言葉よりも深く、深く私の心に突き刺さったのは、あの子の温度のない瞳と表情だ。

そして、『そんなに " 可哀想 " に見えるかよ』と、吐き捨てるように言ったあの子の、哀しみに濡れた声だった。