「ぶつかったのが俺じゃなくて、じいちゃんや、ばあちゃんだったら、大怪我に繋がってたかもしれないんだぞ」



そう言う相手が、まさか自分よりも小さな子だとは思わなくて固まってしまう。

そんな私を前に、再び溜め息を吐いたその子は、壁に手をついて立ち上がると未だに尻餅をついたままの私を悠々と見下ろした。

どこか、冷めている印象を与える目。

黒髪の映える青白い肌は、長い間陽の光を浴びていないことを容易に連想させて、彼の生気を奪って見せた。



「……っていうか、人の顔ばっかジロジロ見てないで、早く携帯、返してくれない?」

「え……あ、ご、ごめんなさい!」



慌てて立ち上がって携帯電話を差し出せば、あからさまに嫌な顔をされて「チッ」という舌打ちまで返された。

背は、私の肩くらいだ。身体は随分華奢で、今のようにぶつかったら、いつでも簡単に倒れてしまうに違いない。

外見から中学生くらいだろうことは想像がつくけれど、雰囲気だけがなんだか大人びているから、高校生である私の方が怖気づいてしまった。