「だけど実例がないことで言えば、俺が未来を変えると俺自身に色々起こるらしいってことも同じだよ」



風が、雨先輩の前髪を優しく揺らす。

真正面から向けられた笑顔が、とても綺麗で。太陽の光に照らされた姿がとても綺麗で、一瞬、見惚れてしまった。

現実から切り離されたような、空に浮かんでいる雲のような、掴めなくて、不思議な人。

こんなこと、この数日間で何度思ったのかもわからないけれど。

それでも未だに、何もかもが現実的ではない、とても、とても不思議な人だ。



「美雨?」

「……っ、あ、雨先輩に何か起こるかもしれないっていうのは、リスクを考えたら同じじゃありません!」

「うーん、そうかな」

「そうですよ! それに、この紙のことも、" こんなこと " とか言わないでください!」

「え?」

「私にとっては、生きるか死ぬかの瀬戸際なんですから! 大切なことなんです! そりゃあ、雨先輩には関係のないことかもしれないけど……」



慌てて視線を逸し、唇を尖らせた私は手の中の紙をキツく握った。

─── 昨日の放課後、カズくんと話して、私も私なりに考えてみた。

思えば、雨先輩に『一週間後に死ぬ』と言われてから、私は『死ぬ前に何ができるのか』ということばかり考えていたのだ。

だけど、それより先に考えてみたくなった。

『自分が死なずに済む方法は、何かないか』……ってこと。

それは、ただの悪足掻きに過ぎないのかもしれないし、まるで意味のないことかもしれない。

それでも私は、やるだけやってみたいと思ったんだ。

未来のない未来を前にしても逃げなかったユリ。

約束された未来があっても、頑張ることを止めないカズくん。

そんな二人を前に、私にもまだ何か、できることがあるのかもしれないって。