ドアノブに手を掛け、今にも外に出ようとしていたお母さんは足を止め、今度こそ身体ごと振り向いた。
そのまま真っ直ぐに私を見つめ、不思議そうに首を傾げる。
そんなお母さんを前に、私はどう自分の気持ちを伝えたら良いのかわからずに、思わず視線を斜め下へと逸らしてしまった。
「ミウ?大切な話って?」
「それは……帰ってから話す。ごめんね、仕事行く前に引き止めちゃって……」
自分でも、なんて悪いタイミングで切り出してしまったのかと呆れる。
今から仕事に出るという時に、する話じゃない。
大切な話があるなんて、そんなことを言ったらお母さんだって内容が気になってしまうに違いないし、仕事に行き難くなってしまう。
「でも、大切な話なんでしょう? 本当に、帰ってからで大丈夫なの?」
「うん……。私も、ゆっくり話したいから……」
「そう……」
言いながら語尾をすぼめれば、小さな溜め息が零された。
恐る恐る顔を上げると、どこか呆れたような、脱力したような表情のお母さんと目が合って、今度こそ申し訳なさで胸が痛んだ。