「ごめんなさい、言っている意味が、わからないんですが……」
結局、思ったことを口にすれば、「そりゃそうだよな」と、彼は苦笑いを零した。
「でも……これ以上、説明しようがないんだ」
そう言うと、そのまま、ゆっくりと。
まるで空を泳ぐように、ゆっくりと私の立つ場所まで歩いてくると足を止め、私と同じように冷たい手すりに手を乗せた。
─── と、その一瞬。
視線と視線が、深く、重なるように交差する。
まるで、蒼い海の底を覗いたみたい。
それは一瞬かもしれないし、とても長い時間だったかもしれない。
再び強く吹いた風が髪をなびかせ、見開いたままの私の目を覆う。
「……っ、」
不意に風に頬を叩かれ意識を取り戻した私は、慌てて雨宮先輩から目を逸らすと─── 手すりに置いていた手をギュウっと握り締めた。
心臓が、バクバクと高鳴ってうるさい。
私が雨宮先輩を知っていたのは、悪い噂だけじゃない。
雨宮先輩自身が、酷く人を惹きつける容姿をしているからだ。