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朝からどしゃ降りだった。世界が白く沈んでいるように見えるほど激しい雨だった。

窓を閉めきっていてもすぐそこで鳴っているみたいな雨音を聞いているだけで、なんだか気分がずんと落ちていくようだよ。

よもぎも元気がなさそうだ。ここのところ毎日雨が続いているせいで、大好きな散歩になかなか行けてないからだね。

あたしも梅雨はほんとに嫌だ。髪は広がるし、洗濯物は乾かないし、肌にまとわりつくような湿気はぬるいし、頭が痛くなるし。いいことなんかひとつもない。


そういえば、少し前までは、こんなどしゃ降りでも、大雪の日だって、学校に行っていたんだっけね。

みんなはきょうもふつうに授業なのかって考えると、なんだか信じられない気持ちになった。学校なんてもうずっと遠い存在のように思える。それくらい、もう“こっち側”がなじんでる。


よもぎの背中を優しく撫でた。


「早く帰ってきてほしいね」


おじさんはあたしが起きてくる前に仕事に行ったらしい。昼過ぎころには帰ってくるかな。お腹すかせて帰ってくるだろうし、お昼ごはんの準備、そろそろしないとな。


スマホが鳴ったのはちょうどそのときだった。

サユからのLINEの通知以外はほとんど無い、さみしい連絡ツールなので、この無機質な音がなんなのか最初の10秒くらいわからなかったよ。よもぎも驚いたようにきょろきょろしていた。


知らない番号だった。出ようか迷ったけど、画面を見つめているうちになにかを訴えかけられているような気持ちになって、思わずミドリの通話ボタンをタップしていた。


「もしもし?」


薄っぺらい機械を耳に押し当てる。


「――もしもし。中澤ゆりさんの、ご家族の方ですか?」

「はい……娘です、けど」


誰?


「ああよかった。いますぐに来ていただきたいのですが」



それに続いた言葉を聞いて、倒れそうになった。