そのとき、視界の端にふと白いものが映った。右側にある棚からひらひらと落ちてきたそれに、気付けば呼ばれるように歩み寄っていた。少しかがんで拾い上げる。
言葉を失った。さっき浴衣を目の当たりにしたときとは違う種類の衝撃のせい。
白いものの正体は写真だった。いまよりほんの少しだけ若く見えるおじさんと、ゴールデンレトリーバーが2匹、それからかわいらしい女性が仲良さげに写っている。
たぶん、わんちゃんはよもぎと、お母さんのさくらだと思う。さくらは7年前に亡くなったと言っていたから、少なくともそれより前の写真かな。ということはおじさん、20代前半とか?
それならきっと恋人くらいいても当たり前だ。
でも、どうしてこんなところ――アトリエに、置いてあるんだろう?
どうして一枚だけ置いてあるんだろう?
よく見れば写真はけっこう色褪せてしまっているし、かなりよれよれだ。
きっと何度も見ていたんだ。アルバムに入れないで持ち歩いたりしていたのかもしれない。
とても特別な写真なんだ、おじさんにとってこの女性は、特別に大切な存在なんだ……。
胃のあたりがきりきりした。
どういう関係だったんだろう。いま、この女性とはどういう関係なんだろう。連絡をとったり、会ったりしているのかな。
そういえば、おじさんに恋人がいるのかどうかなんて、いままで考えたこともなかった。
「――祈、ほんとにそろそろ帰るぞ」
はっとした。写真をポケットに突っ込んだのは条件反射だった。